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第五章

挿絵 400*353

近づくテルミドールの危機の前触れのように、ロベスピエールには暗殺者の刃の影が忍び寄ります。 この章でシャルロットは、余り知られてはいない二つの事件について語ります:

「ある日私達がデュプレイ家に集まっていた時、一人の男が現れ、マクシミリヤン・ロベスピエールと話をしたい、と言いました。 弟が彼を迎え、彼の希望を聞いたところ、彼はどうしてもロベスピエールと個別に話さねばならぬと答えました。 そこで弟はその人物の後に付いて彼を隣室へ入れました。 その少し後、私達はただならぬ騒音を聞きました。 たちどころにあの人物への疑惑が起こりました。 私達が慌ててその隣の部屋に入ったところ、その男は兄の喉をつかみ、彼を壁に押し付けて絞め殺そうとしていました。 その男はヘルクレスのような巨漢で、華奢でデリケートな体のマクシミリヤン・ロベスピエールは赤子の手をねじるような相手でした。 私達が金切り声で悲鳴をあげるとその暗殺者は彼の犠牲者を放して逃げ去りました。 私達は兄を助けることに無我夢中で、犯人の逃げ道を遮ることにまで考えが及びませんでした。
「また別の日には、二人連れの男がデュプレイ家を訪れ、同じ様に兄に話をしたいと言いましたが、兄は不在でした。 その旨を告げましたが、彼らはどうしても兄に会いたいと言い張りました。 彼らの表情、態度、言葉にさえも疑惑が持たれました。 全てが彼らの危険な意図を表していたのです。 その訪問の理由をさらに問い詰められると、その男達はそれ以上答えなかったので、私達はその二人がマクシミリヤンの命を狙う悪党であることを確信しました 。彼らはどうしてもロベスピエールと話をしなければならないのでまた出直してくると言い残しました。 事実その翌日、ディナーの時刻、私達がテーブルについていた時彼らは再び現れました; 但し彼らは一緒ではありませんでした、多分その犯罪の遂行のためにデュプレイ家で待ち合わせることにしていたのでしょう。 最初にやって来た方は、そわそわした様子で、ロベスピエールに個人的に話をしたいと言いました; 私達は彼に彼らの破廉恥な企みは発覚していると告げました。 それを聞くと男は狼狽し、何か口ごもりながら大急ぎで立ち去りました。 そのわずか数分の後、前日現れたもう一人の男が到着、私達は彼にしゃべる時間を与えず、彼の共犯者がたった今やって来た、先に去った彼を追うほかにすべは無い、お前達の襲撃は失敗に終ったと言いました。 彼の意気をくじくのにはそれで十分でした。 彼は雷に打たれたように打ちのめされ、私達に追っ手をかけられるかのように逃げ去りました。
「この二つの事件や、他の多くの出来事により、ロベスピエールは、暗殺者の集団が組織され、自分の命を狙っている事を確信することになったのです。」(註:大きなロベスピエール暗殺未遂事件としては、1794年5月のこと、革命によって社会的地位を失い、失業・酒・賭け事・麻薬で身を持ち崩した中年の男が、ロベスピエールを諸悪の根源と見なしたのか、彼の暗殺を計画、自宅・国民公会・公安委員会と探し回ったが結局見つからず、夜自分と同じアパートに住む議員のコロー・デルボア(Collot d’Herbois)に発砲した;その翌日、アンシャンレジームの元ではもっと生活が楽だったという王党派の男の娘、セシル・ルノーが、短刀二本を隠し持って、デュプレイ家を訪れ、ロベスピエールへの面会を要求、エレオノール・デュプレイに阻止され、保安委員会へ引き渡され、やはり未遂に終った。)(挿絵: デュプレイ家の前から連行されるセシル・ルノー)

更新日:2011-06-17 15:05:00

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シャルロット・ロベスピエールの回想録 - 和訳と解説