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まえがき

18世紀、列強王国が角を突き合わせるヨーロッパに激震を走らせ、おそらくその後の世界史を大きく書き換えたと思われるフランス大革命、この出来事は我が国でも従来深い関心が持たれており、多くの著書が出版され、また小説や映画や劇、ミュージカルの題材ともなっています。 しかしそんな晴れの舞台で脚光を浴びている登場人物は極限られているようです。 誰もが真っ先にあげるのは王妃マリー・アントワネット、国王ルイ16世、また後に皇帝の位にまで登りつめたナポレオン・ボナパルト、彼らが光として、あるいは影として大きな役割を演じたことは確かでしょうが、フランス革命にはもっと多くの人々が身を投じもしくは巻き込まれて、歴史の一片となってその激流に運ばれ、消えていったことは言うまでもありません。 その革命をにない、指導者として闘い続けた人物の一人が、今日なおその人物評価について意見が真二つに割れ、討論の絶えないロベスピエールです。 彼は果たして革命の聖なる原理のために命を捧げた殉教者だったのか、はたまた血に飢えた悪魔だったのか? この点につき、フランスでは現在でも激論が闘わされ、彼を肯定するか否定するかという問題が、そのままフランスの現体制や政治への賛否に結びついている程なので、彼は決して過去の人物ではなく、現在も存在し続けているという興味深い現象が私達の前に浮かび上がってきます。

とはいえ我が国においては、一般に、ロベスピエールは独裁者で恐怖政治をやった、と簡単に片付けられているようです。 確かに今の日本の政治的・経済的諸問題の解決のためのヒントが18世紀のフランスの市民革命にあるとは考え難いのですが、もし視点を政治的見地から、一人の人間の人生についての考察へとシフトさせたなら、私達は幾つかの面白い新発見に出会うのではないでしょうか?

私は、このロベスピエールという人物を主題として、「ロベスピエールの来訪」という戯曲を書きました(文芸社)。 あの非業の死を遂げた革命家がもし現代の日本に現れたなら、どんな事を言っただろうか?と私なりに色々想像をめぐらし、一つの物語を作り出してみました。 しかし、今回このブログで取り上げようとしている人物は彼ではなく、彼の妹シャルロット・ロベスピエール(Charlotte Robespierre)なのです。 彼女については、日本ではおそらく知る人ぞ知るで、関心を持たれるどころか殆ど存在さえ知られていないようです。 けれども、革命の指導者として壮絶な闘いを続けた一人の男を兄に持ち、その兄の処刑後は、世間の厳しい攻撃と貧困に耐えながら、パリの片隅で独り生き続けた薄幸の女性の生涯に、私は、同じ女性として深い関心を寄せずにはいられません。 そのシャルロットは二人の兄弟についての回想録を残しており、そのMémoiresは歴史的価値もさることながら、一人の女性の飾らぬ内面を見つめるという点で、大変面白く味わい深いというのが私の感想でした。 そこでこのブログの読者の方々と一緒に、そのMémoiresのページを繰りながら、シャルロットの目線に立って、18世紀末のフランスの激動の中を歩んでみたいと考え、1909年頃出版されたらしい崩壊寸前のような古本を開き、PCに向かいました。 皆様がこのブログを読み終えて後、少しでも心に残るような旅をしたと感じて頂ければ、とても幸せに存じます。

更新日:2016-08-22 14:58:06

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シャルロット・ロベスピエールの回想録 - 和訳と解説