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第二章

シャルロットは兄がいかに素晴らしい人物であったかを語り続けます: 

「彼はその優しさと清らかさのゆえに人々に深く愛され、誰もが競って彼と知り合いになろうとした程でした。 彼の弁護士としての業績は目覚しいものでした。 才能に恵まれ、且つ言葉は明快で、論理は説得力のあふれたものでした。 彼は正義の為の弁護のみ引き受け、いつも勝訴しました。 人々は彼に重要な訴訟を託し、それらの訴訟で彼は卓越した腕前を発揮したのです。 無私無欲で、貧困に苦しむ人々のために闘い、常に正義と信じる側の弁護を引き受け、時には費用を請求せず、自腹さえ切りました。 かくして人は、彼は圧迫された人々の支えであり、罪の無い人々のための、悪の懲罰者だと言ったのです。」

次いでシャルロットは兄の日常生活について詳しく語っています:

「彼はとても勤勉に働き、裁判所にいない時は大部分の時間を自分の書斎で過ごしておりました。 毎朝6時か7時に起床、8時まで仕事をしました。 それからカツラ師がカツラを整えるためにやってきました。 それが済むと、彼は乳製品の朝食をとり、10時まで働き、着替えをし、裁判所へ出かけました。 法廷での弁護の任務の後、ディナーのために帰宅しましたが、食事は軽く、赤ワインを少し加えた水しか飲みませんでした。 食の好みも特に無く、私は幾度もディナーに食べたい物は無いかと聞きましたが、彼は決まって、分からない、と答えました、果物だけは大好きでしたが。 いつも必ず口にした物は一杯のコーヒーでした。 ディナーの後は、散歩や訪問のために1時間位外出し、帰宅すると7時か8時頃まで書斎にこもり、夜の残りの時間は友人あるいは家族と過ごしました。
「私と叔母は、兄が家族の団欒の時しばしば別の事を考えぼんやりしていることを咎めました。 実際、私達がトランプに興じたり余り意味の無い会話ばかりしている時、彼は部屋の隅の安楽椅子に身を沈め、まるで自分一人しか居ないかのように、沈思黙想に浸っていました。 でも彼は本来明るく、時には冗談を言って涙が出るほど笑いこけたものです。
「マクシミリヤンは生来穏やかに安定した性格で、誰の気持ちにも逆らうことはなく、皆が望む事柄はそのまま彼も望みました。 叔母は幾度も私に言いました、『あなたのお兄さんは天使ね。彼は全ての道徳的美徳を備えているけど、邪悪な連中の食い物や犠牲になってしまうかも知れないわ。』」

しかし彼はただ優しく寛容であっただけではなく、鋼のような意志と誰も打ち負かす事のできない精力を持っていた、とシャルロットは続けます。 彼が政府の指導者に登りつめていった2年足らずの間に、彼の青銅と花崗岩のような強靭さは見事に証明されました。 その精力や頑強さは、人に快く接する優しさと結びついていて、彼と個人的に親しくなった人々は誰もその彼の性格にひきつけられました。

「兄の愛すべき性格は、女性達をも魅了し、何人かは彼に単なる好意以上の感情を抱いていた、と思います。 その中の一人マドモワゼル・デゾルティ(Deshorties)は彼とは相思相愛の仲でした。 この若い女性の父親は、二度目の結婚で、私達の叔母の一人と再婚しました。 彼には先妻との間に二人の息子と三人の娘がおりました。 兄は2~3年間くらい彼女と交際を続けており、事実、何回か結婚の話が出ていました。 もし彼が市民の投票によって三部会に出席する議員に選ばれ、甘い個人生活から引き離されて政治のひのき舞台へ投げ込まれることが無かったなら、彼はこの女性と結ばれたことでしょう。 絶対に彼以外の男のものにはならない、と誓ったマドモワゼル・デゾルティでしたが、その誓いを守ることは無く、憲法制定議会の間に他の男性の求婚を受け容れてしまったのです。 兄はこの不実な行為を、議会の閉会後アラスへ帰郷した時初めて知り、ひどい衝撃を受け、悲嘆に暮れました。

更新日:2011-06-11 16:21:40

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シャルロット・ロベスピエールの回想録 - 和訳と解説